365日坊主

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彼は言葉だけに気が付かなかった

『彼は言葉だけに気が付かなかった』


誰もが春の次に夏が来ると疑わなかった。

世の中には夏と冬しかないのに。
  その中間をニンゲンが名付けただけ。

そんな彼も入院するときがきた。
    なにかの病気があるようだ。

止るまもなく家族が呼ばれた。
  父は愕然とした。
     時が止ったようだった。

ドクターは彼の腹を開いた。
    次の瞬間ドクターは目をつぶり、
          黙って彼の腹を閉じた。

また家族は呼ばれた。
 ドクターの言葉に、
    父は息を失った。
体内の水分は目から流れて、
  血液は逆流した。

彼は元気だった。

母は世界が白黒に見えるように、彼を家へ連れ帰った。
  父は2本足で元気に走る彼を直視できなかった。

父は太陽になった。
 明るく振舞い、笑顔を絶やさなかった。
   もちろん涙なんて見せない。

母は海になった。
 彼の服を洗濯するときに、においを嗅いだ。
   この匂いが永遠でないことに触れた。
     母は白黒の世界で泣き続けた。


「あと1週間で死ぬとしたら何がしたい?」

父は聞いてはいけないことを
            訊いた。

元気に飛び跳ねる彼に訊いた。

彼は長い時間をかけて死ぬ前にやりたいことを話した。
○○がヤりたい。
   ××がしたい。
      △△をしてみたい。
彼は普通の男の子に戻っていた。

父は太陽の変身が解けていた。
   父は頬を伝う涙に気が付かなかった。
自分の声とは思えない嗚咽をかみ締めて、彼の前から逃げた。

彼は「あと1週間で死ぬとしたら」をただの質問として受け止めた。
この仮定をただの想像として片付けた。
口で言うだけで、なにもしなかった。

7日後の夜。

 彼は風呂上りの身体に、新品のパジャマを着て寝床に向かった。
  父と母に笑顔を見せた。
   「おやすみ」

父と母は枯れていた。
 「ああ、おやすみ」と父は口に出そうと思った。
    父の声帯はピクリとも動かなかった。

彼は颯爽と階段をのぼり布団にもぐり目をつぶった。


新品のパジャマはいつまでも新品のパジャマだった。


  1. 2006/12/06(水) 18:00:00
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2006年12月14日設置