『10円玉を使うとき』
17歳。男。高校生。
「俺」は反抗期に反抗するのがかっこいいと思っていた。
親の言う事には疑問ももたずこの歳までやってきた。
遅れてきた中2病。いわば高2病だ。
たとえば目の前にある十円玉。
これはここに来るまでに、何万人の手に渡り、
何千キロの距離を動いたのだろう。
造幣局で生まれて検査を通過して、銀行へ旅した。
ほとんど動かないときもあれば、たくさん動いたときもあった。
いろんな人に手渡った。そしていろんな場所へ行った。
コンクリに落とされたこともあったろう。
子供にタバスコをかけられたこともあった。
水の中にも入った。火の中も経験した。
ぼくの体が胴でできていることを知っている人はたくさんいた。
でも体重が4.5gだってことを知っている人はほんの数人だった。
直径が23.5mmってことを知ってる人は数えるほどしかいなかった。
ATMという機械の中にいる時間が長かった。
ぼくはレジスターと呼ばれる機械の中が好きだった。
でもその機械の中にいられる時間はいつも短かった。
テレビというものにも出たことがある。
お父さんと呼ばれるその動物はぼくを持ち上げて、積み上げた。
ぼくの上にのっかっている無数の10円玉が重かったので、体をゆらして崩してみた。
お父さんと称される動物は落胆していた。
10円玉を積み上げる番組を作るなんて、変な動物である。
その番組はほかにも「お父さんが、一円玉を吹いて、グラスの中に入れる」ことや
「お父さんが、ホッピングで、コースをクリアする」などへんなことをしていた。
「お父さんが、『エリーゼのために』を一音も間違えることなく、ピアノで演奏」というのは無謀であった。
そしてある日……
ぼくは少年の手に渡った。
そんなことを10円玉に思いを馳せながら俺は自販機の中へ放り込んだ。
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